2026年1月12日 10:00
AIの活用が進むにつれてサイバーセキュリティの前提そのものが変化しつつあります。 これまでのITセキュリティは人が操作し人が判断しその結果に人が責任を負うことを前提として設計されてきました。 しかしAIが意思決定や実行の一部あるいは大部分を担うようになった現在、その前提はもはや成り立たなくなっています。
近年のAIは文章生成や質問応答にとどまらず、メール送信、ファイル操作、システム設定の変更、送金や契約処理といった実務にまで直接関与するようになっています。 AIが前提条件を誤解したり参照する情報を取り違えたりした場合、その誤りは即座に現実の行動として実行されます。 しかもAIは人間よりも速く同じ判断をためらうことなく繰り返します。 悪意がなくても短時間で大きな損害が発生し得る点が従来のシステム障害とは決定的に異なります。
次に深刻なのが「誰がその行為を行ったのか」が分からなくなることです。 従来は操作ログを確認すれば誰が、いつ、何をしたのかを追跡することができました。 しかしAIが介在すると人が直接操作したのかAIが判断して実行したのか、あるいは別のAIの影響を受けた結果なのかが曖昧になります。 AIに広い権限を与えている場合、一つの認証情報やトークンの漏洩が気づかれないまま重要な操作の連続実行につながることもあります。
AIが「もっともらしい誤り」を前提に動いてしまうことも大きなリスクです。 AIは社内文書やデータベースを参照しながら判断を行いますが、その中に古い資料や誤った情報あるいは意図的に混入された偽情報が含まれているとそれらを正しい前提として扱ってしまいます。 問題なのはAIがその判断を強い確信を持って実行する点にあります。 一見すると正しそうに見えるため人間が異常に気づくまでに時間がかかり、その間に誤った判断が自動的に連鎖していきます。
さらに事故や不正が起きた後に説明できないという問題も無視できません。 AIが関与した判断について「なぜその結論に至ったのか」「どの情報を根拠にしたのか」「誰が承認したのか」を明確に説明できないケースが増えています。 これは単なる技術的な課題ではなく、監査や法規制、取引先への説明といった経営レベルの問題に直結します。 システムを修正できたとしても説明できなければ信用は回復しません。 「AIが判断した」という理由は責任を免れる根拠にはならないのです。
これらのリスクに共通しているのは攻撃手法そのものが高度化したことではありません。 AIの判断と実行が人間の理解や統制の範囲を超え始めているという点にあります。 AI時代のセキュリティとは単に侵入を防ぐことではなく、AIが何を判断し、どこまで実行し、その結果に誰が責任を持つのかを、後からでも説明できる状態を維持することにあります。
そして重要なのはこの未整理な領域そのものが大きなビジネスチャンスになっているという点です。 AIの行動を制御し、権限を適切に分離し、判断と実行の証跡を残し、説明責任を担保する仕組みは現時点では十分に整備されていません。 これは単なるセキュリティ製品の話ではなく、企業がAIを業務に組み込み安心して使い続けるための基盤の問題です。 AI時代の不安や責任を引き受けるソリューションを提供できるかどうかが、これからのセキュリティビジネスの価値を決定づけていくことになるでしょう。
