2024年5月13日 07:00
オーディオ史にあって最もエキサイティングな時代、それは80年代後半から90年代前半までの7年間でしょう。
世はバブル景気に浮かれあらゆる商品やサービスが何もせずして売れ、経済循環よろしく消費が消費をお金がお金を生んだ時代です。
この時代にオーディオ界も奇しくも大きなイベントが多数重なり、オーディオメーカーもオーディオマニアも狂喜乱舞の実にエキサイティングな7年間でした。
ますはアナログからデジタルへの急速なる移行です、わずか数年という間にレコードがCDに全て変わったのですから。
この流れは90年代初頭にカセットテープからMDに、2000年初頭にはビデオテープからDVDやHDDに移行していきます。
アンプも80年代後半にはDAC搭載やAV対応と、同じメーカーから年に何度も魅力的なアンプが誕生しました。
そして次々に出るデジタルレコーダーに関連アクセサリー類と、いやいやメーカーも大変ですがオーディオマニアもこれに追従するには経済力も体力も何もかもが大変でした。
息する暇もなく次々と購入し体験しなくては時代の変化についていけないのです、また新製品がたったの数年で陳腐化し使えなくなるという時代でもあります。
更にはドルビーサラウンド技術が1981年に公開され、ホームシアターの本格的な時代が1985年に幕開けします。
これも各社一斉にAVアンプに乗り出します、これもまた次から次へと新技術搭載のAVアンプやホームシアター向けのトールボーイ型スピーカーが一挙に台頭してきました。
オーディオメディアの大変革、オーディオ文化と趣向の大変革、音響技術の大変革、これがこの7年間に一気に同時多発で押し寄せたのです。
更には1985年という魔の年にはスピーカー598戦争とアンプ798戦争が同時に勃発し、その裏ではCDプレーヤーの598戦争まで勃発、もう何が何やら解らない狂いに狂ったような7年間だったのです。
どんな事にもマイペースに進めることを信条としている私も、流石にこの7年間はオーディオの大変化に右往左往し、とてもではありませんがマイペースに進めることなどできませんでした。
取りあえず当時は経済力に物を言わせて出てくる新製品を買いまくるしか対抗手段がありません、運良く当時は最も経済的に潤っていた私自身の第二次黄金時代とぴったり重なったことも幸いしました。
この7年間は、オーバーな話ですが毎年のようにオーディオ雑誌の中身がまったく違う内容と見たこともない製品PRに変わっていったことです。
多くの歴史あるオーディオ雑誌は今の2倍以上もの厚さがありました、この厚さの差は全てPRページの厚さです。
ただ一つ良かった事、それはこの時代のどのメーカーのミドルクラスのアンプとスピーカーは極めてコストパフォーマンスが高かったということです。
それまで20万円台のスペックを持つアンプが10万円程度で買えたのですから、メーカーのサバイバルゲームの恩恵を大いに受けたのが私だったのかもしれません。
でも変化についていくのも大変でした、年間のオーディオにかける費用は一気に3倍に増え部屋もすぐ狭くなり2年単位で引っ越ししていました。
そしてメディアの変化に合わせるように同じメーカーでも製品ごとに音質が大きく変化してきます、だからこの時代の製品はコレクションする意味も価値も大きいのです。
たった1年で最新のアンプが旧式になってしまう、世の中に実質寿命1年という製品が溢れかえっていたのです。
私は世界初のDAC搭載アンプやアナログアンプの名門サンスイのドルビー対応AVアンプなど、歴史的価値のある製品や増幅回路などの技術的価値のあるアンプを現在も手元に残してコレクションとしています。
このオーディオ界に起きた狂喜乱舞の異常な7年間、オンタイムで経験して当時を語り合える友人が少なくなったのは寂しいばかりです。
当時のオーディオ仲間の多くは、この7年間の間にオーディオ道楽そのものをやめていきました。
これほど短期間に大変化を起こせば誰だってついていくだけで疲弊します、そして経済的にも相応の負担がかかるのも確かです。
私は多いに大変化の7年間を愉しみ、その後のオーディオ氷河期もホームシアターに移行してマイペースに愉しんだ派です。
また90年代に入るとオーディオ界は幅30Cm前後のミニコンポが主流になってきます、これはこれでまたメーカー独特の技術で独特な音質が愉しめたのです。
「一時的な負担は思考を凝らして継続させることに尽力する」、「時代が変化したら自分も合わせて変化させる」、これがその時代を謳歌する方法だと経験を通して悟ったのです。
「精神的ストレスに経済的負担、それは志したことが本物か否かを確認する為の天の試練である」、こういったこともオーディオ道楽から学んだのです。
どんな事も辛くても継続させれば何時かは金字塔が建ちますが、辛さから逃げてしまえばそれまでの苦労や努力全てが水の泡と消え、かけた時間と労力とお金を無駄にしただけで終わるのです。
どんな時代もどんな対象でも然りなのです、「たかがオーディオ、されどオーディオ」、道楽という人生の脇道を真に愉しめない人にどうして人生の大道であるビジネスや私生活を真に愉しめるでしょうか?
一事が万事、生きていくにどうでもよい事での姿勢は人生そのものにしっかりと反映されるのです。
「人生、愉しんだ者勝ち」、だから私は道楽だろうがビジネスだろうがやりたいと思ったことは何でもすぐやります、それはすべきその時にしなかったという後悔を人生に残したくないからです。
お金が無いなら策を講じて得れば良い、人がいないのなら頭を下げても仲間にすれば良い、できない理由を探してはやらない大義名分を作っている人はきっとどんな小さなことでも思うだけで行動しない人なのです。