新たに窮地を脱しようと新事業を立ち上げる経営者が後を絶ちません、そして金融機関から借り入れができないと解ると、資金調達手段の一つとして助成金や政府の支援金を考え始めます。
ここではっきり言っておきますと、確たる事業計画ができていない状況下での助成金や支援金などの返す必要の無いお金ほど厄介なものはありません。
昔から、「ただほど怖いものは無し」ということを頭に入れておくことです。
確たる事業ができていないうちの返す必要のないお金は正直言って何も生みません、最悪は利益を生まないのに助成金をあてにしての先行投資した人材や事業の維持コストが嵩み、むしろ採択されなかった方が良かったという結果だけが残ります。
自身の腹を痛めないで助成金を得て人材確保や設備投資をして成長した企業を未だかつて見たことがありません、統計は実に正しく真実を物語っているのです。
結局のところ経営者が自身の腹を傷めない事業は絶対に上手くはいかない、それだけのことです。
先ずは自身のお金を惜しむことなく投資し、その投資によって生まれた事業の実績を以って更なる高嶺を狙う為に銀行融資で成長段階へステップアップする、この繰り返しで企業は大きく成長していくのです。
自己投資ができない人に成長事業の構築などできるはずはありません、前述のように自分の未来に自信もなく結果責任もとれないということなのですから。
「借金をしたくない」というのは普通の人の感覚だと思います、理由は「返す必要のあるお金は気が重い」という理由からです。
ここでお金を借りるという行為と経営ということに関して経営者なら正確に理解しなければいけないことがあります、それは信用がなければお金を借りたくても借りることができないということと、もう一つは計画した事業の必要予算は原資がなくては絵に描いた餅と同じになるということです。
経営者とは個人情報がある程度公開されてしまう半公人です、自分の信用力の目安が借入総額と言っても過言ではありません、また事業を行うに手元の資金でできる事業はたかがしれておりコストの限界というものがあります。
どうしても返すことへのプレッシャーがあるなら、借りたお金には手をつけずに何時でも返すことができるようにしておいてキャッシュフローを常に潤沢にしておけばいいのです。
この場合はキャッシュフローの高さから更に融資枠が増えていきます、また何時でも事業に対して余裕が生まれますので上手くいかないことも上手くいくようになります。
つまり、1億円の借金は有るがキャッシュフローは1億円以上ある、これは経営者として大きな勲章であり信用力です。
決算書も見事に中堅企業並みになりますし会計上は完全無借金企業です、つまり経営者として大成功です。
また、貸し借りの金利の差は信用力を維持するための保険料と考えればよいのです、現在は借金をしてもゼロに近い金利なのですから。
感覚として不思議なのは、家の購入や車の購入にはオーバーローンでも平気で借りているのに何故事業資金は借りられないのでしょうか?
つまり、そのこと自体が自身の事業の将来性に自信が無く責任が持てない証拠ではないでしょうか?
だから銀行も融資残高が無い企業は更に厳しくチェックして、いざという時にも貸してくれないのです。
上手くビジネスを回してキャッシュフローを無難にクリアしていける経営者と、そうでない経営者の違いは何でしょうか。
これは私自身の経験上言えることですが、年間計画に基づいた行動をしっかり行っているのかどうかが大きなポイントになります。
年間を通して長期視野で見極めている人は月間での短期状況はあまり重要ではありません、だから焦りも無いし粛々と達成に向け計画をこなしていけます。
また、その間のキャッシュフロー計画も万全です、事前に状況や投資事項を織り込んで資金調達を行っているからです。
売り上げが落ち込んできても、売り上げ状況に関係なくサイト構築から販促品や商品・商材の開発投資を計画通りに実行できるのです。
対して年間を通した計画ができない人、もしくは計画してもその通りに実行できない人は自身に対して不安を抱えることになります。
またキャッシュフローの問題で動くに動けず、取り急ぎの日々の活動資金を得る行為に出てしまいます。
こうなっては計画など絵に描いた餅で小さな事しかできなくなります、更にはこの繰り返しで何の進展もないままに時間だけが過ぎていきます。
気が付けば創立数十年と重ねるも、創立当初と何も変わらない状況となってしまうのです。
経営者とは上手くいかない時期が1年も続いたら何かおかしいと疑問を持たなくてはなりません、そして本格的な軌道修正を覚悟を決めて実行する必要があります。
自身が経営に向いていないと思えば経営顧問を雇う、他社の傘下に入るなど経営者として会社を維持成長させる方法は無数に有ります、これも経営者の大きな仕事の一つです。
大赤字の事業であってもなかなか経営者は撤退することを躊躇います、この中止すべき事項があるのに中止できない心理を「コンコルド錯誤」と言います。
「コンコルド錯誤」とは、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機コンコルド開発プロジェクトの大損失事件から命名された心理作用を指す言葉です。
開発費は当初予想の3倍以上かかった一大事業であったのですが、完成以降も大きな性能向上開発・維持コストが重くのしかかり、プロジェクトの中止の是非を問われても誰も明確な回答ができないまま時間だけが過ぎていきました。
この時に関係者の誰もが存続させることで損失が更に拡大することが解っていても、それまでの多額の投資を惜しみ誰一人として事業廃止の決断ができなかったのです。
この心理は、自身の投資における行動を冷静に思考できずに損しているにも関わらずその状況を脱する行動が取れなくなるというものです。
この状況のときの思考は、これまで投資してきたことを止めてしまうことで損失が確定してしまい、これを回避しようとする思考が損を確定し打開案を探る未来思考よりも大きくなり投資を止められなくなるという心理現象です。
早い段階で損を一旦確定しその後じっくりと挽回策を練る方が傷が浅く回復も早いのですが、潔く判断できるかどうかは経営者の器の大きさによります。
窮地に陥っている会社には必ず兆候が現れるようです、危険な兆候を幾つか上げてみましょう。
・社長となかなか連絡が取れない
何度留守電を入れてもメールしても返事は一切なし、緊急の資金調達やら取引先への対応でてんてこ舞いなのでしょう。
・幹部社員や経理担当が退社する
正常な退社なら取引先などに挨拶するはずです、それが突然の退社となると穏やかではありません。
給与未払いや経営陣との関係悪化に陥っていると推測できます。
・社長の付き合いが悪くなる
飲食の誘いに快く応じていた人が突然断られることが多くなったら要注意です、資金繰り悪化は確実に経営者の行動にブレーキをかけてしまうようです。
以上はほんの基本的事項ですが、これらのうち1つでも該当すれば充分に危機的状況にあると見ても間違いはないでしょう。
同時多発的に発祥する悪い噂や社長の付き合う人脈がコロコロ変わるなど、大小の変化は必ずその裏に何か根本的な問題が潜んでいます。
上手くいっているときは経営者は常に穏やかなのです、変化が起きているということは危機的状況を疑った方がよいかもしれません。
逆説的に言うと、どんなに境地に陥っていても何時も通りの行動を心がけることが肝要です、取引先に危機的状況を察知されれば更なる状況悪化は免れません。