メガバンクの決算とフィンテック

7月30日と31日、メガバンクグループ3社の第1四半期(2019年4-6月)決算が発表された。三菱UFJは前年同期比の連結経常利益が微増の4,534億円、みずほも微増の2,198億円、三井住友は2割減益の2,614億円となったが、リテールの資産運用ビジネスおよび証券子会社の業績が苦戦するなかで、総じて健闘した決算であったと評価している。
メガバンク3社の株価は下落傾向が続いており、超低金利環境下で旧来の銀行のビジネスモデルが限界を迎え、収益の悪化が続いているとの市場の評価となっている。そのなかでの今回の決算は、海外戦略の拡大や国内での多角化戦略が収益の安定化に寄与していると評価される。
日本の銀行は今後、国内においては大幅な店舗数の削減と店舗を中心としたこれまでのビジネスモデルの転換が求められている。しかし一方で、特にメガバンクにおいては、新興フィンテック企業との協業等による新たなビジネスに取り組んでおり、その成果が徐々に花開きつつあるのも事実である。
メガバンク3社のPBR(株価純資産倍率)は0.4倍台となっており、過去最低水準の評価になっている。メガバンクによるフィンテックの加速等によるビジネスモデルの転換、ビジネスモデルの転換に伴う人員の削減等が評価され、メガバンクのPBRが底打ちし、株価が上昇する日が近づいているのではないかと予想している。
仮想通貨取引所の業績回復

7月26日に発表されたマネックスグループの第1四半期(2019年4-6月)決算によると、2018年4月よりグループ傘下となった仮想通貨取引所サービスを手掛けるコインチェック社がグループ傘下では初となる四半期黒字化を達成した。
黒字化の要因は、2019年3月末から2019年6月末の3ヵ月間でビットコインの価格が2倍以上に上昇したことに伴う、預かり資産の大幅増と、サービスの拡充で口座数が87万口座から90万口座へ拡大したことが寄与した。
直近のビットコイン価格は乱高下を続けており、見通しは立てにくい状況ではあるが、マネックスグループもコメントしているように、透明性ある規制およびグローバル企業の新規参入を受け、仮想通貨市場は健全な成長へと向かう過程にあると考えられる。
加えて、コインチェックではホットウォレットで保管する資産上限を仮想通貨の預かり資産約1,000億円に対して足下25億円まで絞り、サイバーセキュリティリスクを低減している。過去の教訓を受け、マネックス傘下に入り、リスク管理が徹底されつつあるのではないかと推測される。
マネックスグループの思惑通り、仮想通貨市場は健全な成長へと向かう過程の中で、足固めを行いつつ、ネット証券で培った様々サービスを提供していけば、グループの収益の柱として大きく拡大する可能性も否定できない。復活をはじめたマネックスグループの仮想通貨事業の躍進に期待したい。
銀行株と証券株の株価下落がフィンテックを急成長させる

日本の株式市場は年初から僅かながら上昇している。東証1部上場企業全体の株式時価総額(株価×発行済株式数)は、6月末までの半年間で4%の上昇となっている。
そのような状況にも関わらず、株式時価総額が減少している業種がある。代表的な業種としては銀行業と証券・商品先物取引業である。それぞれ株式市場が上昇しているにも関わらず、半年間で2業種とも6%の減少となっている。
2018年の1年間で見ても株式市場の下落により東証1部全体の株式時価総額は17%減少した。それに対して、銀行業と証券・商品先物取引業の2業種は、いずれも27%の株式時価総額の減少となった。銀行株と証券株の株価下落がここ1年半継続しているのである。
銀行株の株価下落はマイナス金利政策による貸出金利の低下などが要因である。証券株の株価下落は株式市場の売買代金の低迷による手数料収入減少が要因であり、それぞれの業種で従来型のビジネスモデルの転換が求められている。
このような環境下で大手銀行や大手証券は異業種との提携などによるフィンテック投資を加速させつつあるが、大きな変革までには至っていない。しかしながら、銀行株や証券株の株価下落が合併や買収によるビジネスモデルの転換をもたらし、フィンテックが急成長する時期が近づいていると予想している。
株価上昇による好循環に期待

7月に入り、米国株式市場は利下げ期待を背景に好調を持続している。米国の有力企業30銘柄で構成されるNYダウは史上最高値を更新し、27,000ドル台に突入した。年初から約17%の上昇である。なかでもマイクロソフト、ビザ、アップルなどの情報技術業種が株価上昇をけん引している。
そのような中、世界のフィンテック企業の株式で構成されるSTOXX グローバル フィンテック インデックスは、年初から実に約30%上昇している。同インデックスは、約8割が米国企業であり、構成銘柄の上位はビザ、マスターカード、ペイパル、ワールドペイなどである。
米国においては、優れたフィンテックサービスが拡大していくことで、フィンテック関連企業の株価が上昇していくという、企業、消費者、投資家にとっての好循環が生まれていると想像できる。
一方、日本の状況を見てみるとフィンテック企業の株価は、日本の株式市場の低迷もあり、好調とは言い難い。それは、キャッシュレス化の遅れとともに、まだ革新的な企業が上場していないことやフィンテック企業が大企業の傘下にあることなどが理由として考えられる。消費税引き上げやラグビーワールドカップ、オリンピックをきっかけにフィンテック企業の事業環境が好転し、日本においても株価上昇による好循環が生まれることに期待したい。
資産運用サービスの海外進出に注目

ロボアドバイザーによるおまかせの資産運用サービスを提供するお金のデザインが、アジアの金融システム大手、シルバーレイクグループと設立した合弁会社を通じて、7月からマレーシアでのサービスの提供を開始した。
マレーシアでは個人投資家によるネット証券取引が日本のように拡がってはいないものの、人口増加やGDPの上昇に伴い個人・企業の金融資産を成長させるための仕組みの整備が進んでいるようである。そのような環境下で、ユーザーフレンドリーなサービス設計によって、ロバアドバイザーによる資産運用サービスが提供されば、スマートフォンが飛躍的に普及している状況も追い風に、一気にサービスが拡がっていく可能性があるのではないかと見ている。
お金のデザインを始めとした日本のフィンテック・ベンチャー企業による資産運用サービスの海外進出は、飛躍的に業績が拡大する可能性を秘めていると思われる。今後の動向に注目していきたい。